鳴り止まない電話

受任してもらった翌日だからということはないと思うのだけど、今日は今までで一番取り立ての電話が多かった気がする。
午前中は得意先にお詫び行脚。かかってきた電話は全て留守電に回していたのだけど、後で確認すると計7件の着信。うち3件は同じ銀行。繰り返し何度もかけてくるくらいに、向こうも焦ってきているということなのか。正直よく分からない。


午後も所用で外回り。その間も電話は鳴り続け(正確には震え続け)、出ようと思えば出られたのだけど無視してドトールでカフェラテM。
街金や闇金で借りているならいざ知らず、銀行やカード会社レベルでは取り立ての電話で声を荒げたりとか、そういうことはない。
「ほんじつとうさんのお電話でしょうか?はてなカードの○×と申します。お借りいただいておりますカードローンの件でご連絡したい点があり、お電話する次第です……」
返済が遅れると*1、会社にもよるけれどおおむね翌日から1週間後にはこういった電話がかかってくる。どういうわけか、この段階で電話をかけてくるのは必ず女性。

その電話を取らなかったり、返済がさらに遅れたりすると、やはりまた女性オペレーターから電話がかかってくる。
「お借りいただいているカードローンの件でございますが、前月末日のお支払い予定日にお支払いいただく予定でした○○○○○円の入金が確認できておりません。ご返済をお待ち申し上げておりますが、ご都合はいかがでしょうか?」

これを「明日返します」「これから返します」と、のらりくらりとかわしてしていると、担当は男性に変わる。
はてなカード調査部の□△と申します。ほんじつ様でしょうか?ご返済の方がお済みでないことはご存じですよね?このままご返済いただきませんと、裁判所に申立を行うといった事態も考えられまして。ええ、申立というのは一括返済の申立です。すべてをお返しいただくと。昨日お電話に出ていただけなかったので、その方向で進めております。期限の利益というのがありまして、ご返済いただいていないですからねえ。こちらとしても困っているわけですよ。ところでご返済のご都合は……」*2
おおむね2〜3週間くらい返済が遅れると男性が出てくる。それまではバカ丁寧なマニュアル対応の女性だったのが、急に良く言えばフランク、悪く言えばチンピラっぽい男性に変わるのは、明らかにギャップの効果を狙っているのだろう。おまえはヒッチコックかっ、と言いたくもなるけど、確かに効果はある。急にカイジ臭がしてくるのよ。ちょっと電話の向こうから『ざわ…ざわ…』と聞こえてきそうな感じ。ちゃんとそれなりに怖い。


しかし、それなりに慣れてくると、本当にいやなのは女性オペレーターになる。
男性担当とはそれなりにコミュニケーションが取れる。
「いや、返せないんですよ。お金がなくて」と言えば、「そうはいっても返していただかないと、お借りいただいているわけですから。このままだと全額となりますので、それは辛いでしょう?」と、ちゃんと返事が返ってくる。
けど、女性オペレーターだと「ではいつご返済できますか?」しか返ってこない。古い比喩だけど、針が引っかかったレコードみたいにそれを繰り返すだけ。もう、それには返せない返せないと繰り返し言うしかなく、何度かそれを繰り返した上で「明日までにはご入金いただけますか?」と聞かれる。そこで「はい」と嘘を答える以外、電話を切る方法はない。
そして翌々日には、また電話が鳴る。それがまた女性オペレーターでいやな気分になるか、男性担当で恐怖を感じるか、もちろんどちらもいやだけれど、人間としていけないことをしていると感じさせられるのは前者。


明日か明後日には受任通知が各会社に届き、もう電話はかかってこない。
そのことにもなぜか罪悪感を覚えるのは、彼女たちのマニュアルが優秀であるということなのかな。

*1:クレジットカードの場合、予定の期日に口座引き落としが出来ないと再引き落としや振込を促す手紙が届く。ここでいう返済の遅れは、その手紙に書かれた期日を過ぎたとき

*2:法的に裁判所に一括返済の申立というのはよく分からないのだけど、ここはフェイクなしに実際言われた話。