『破産』ということ

前回は『倒産』について長々と解説をしたけれど、シンプルにまとめると次の二つ。
 

  1. 『倒産』=『破産』ではないし、『倒産』=『会社の消滅』でもない。
  2. 『倒産』はいろんな方法があって、再建型と清算型がある。再建型では会社は存続。清算型なら会社は消滅。

 
今回は、倒産の一形態であり、株式会社ポチが実際に採った方法でもある、『破産』についてまとめてみよう。
 
『破産』をシンプルにまとめると、借金や買掛金などの債権が積もり積もってにっちもさっちもいかなくなったよと裁判所に申立て、その清算を頼むこと。
 
零細企業の場合、会社で作った借金のほとんどに代表者の個人保証をつけさせられるので、会社が破産するとその借金は代表者個人に降りかかる。そのため、零細企業の破産は会社と代表者個人のセットで行うことになるケースが多い。
 
破産の申立を裁判所にすると、裁判所は本当にお金ないのかなと確認し、こりゃ無理だなと判断すると「破産手続き開始決定」というのを出す。昔は「破産宣告」と、死刑宣告や余命宣告並みに重苦しい名前だったんだけど、2005年に改正されて柔らかい名前になった。しかし、意味は同じ。これが出た段階で、会社なり個人なりは『破産』した、ということになる。
破産手続き開始決定が出た破産者は裁判所の監督下に置かれ、裁判所に選出された破産管財人がその財産を調べる。破産管財人は財産があったらお金に換え、債権者集会を開いてその結果を公表し、可能であれば残っているお金を債権者に配当する。それが終わったら会社は消滅。登記簿から抹消される。その段階で払うべき主体がなくなるので債権も事実上消滅する。借金を取り立てたくっても、借金をした○×株式会社はもうない、だから取り立てのしようがない、という状態になる。
しかし、前に書いたように零細企業の借金のほとんどは代表者の個人保証が付く。○×株式会社がなくなっても、その社長から取り立てることはできる。
法人と違って個人は抹消するわけにはいかない。そこで、裁判所が破産者を呼んで免責審尋というのを行う。破産管財人があらかじめ破産した理由を調べ、その結果を裁判官に報告する。裁判官が念のため破産者本人にも確認して免責審尋は終了。特にひどい理由がなければ、その借金を返さなくてもいいよと『免責許可』を出してくれる。これで、個人も借金から開放され、破産に関わる手続きは全部終了する。
 
このように、破産をした後始末は裁判所、実際には裁判所が選んだ破産管財人にしてもらうのだけど、その費用は破産を申し立てた人が払わないといけない。この費用を予納金というのだけど、その額は法人だと最低でも70万円。代表者個人の破産を合わせてすると、さらに50万円。この他に、申し立ててもらうための代理人弁護士の費用もかかり、最低でも200万円程度は必要になる。
借金返せないくらいにお金に困っているのに、そんな大金出るかっ、という突っ込みは当然出るところで、以前は破産手続きを取らずに夜逃げするケースが多かったらしい。前回のエントリーでまとめた、「(7)放置する」のケースですな。
この状態をよろしくないと考えた東京地裁は、手続きを簡素にして迅速に処理できるようにし、破産管財人の仕事を代理人弁護士にある程度分担することで負担を減らし、その報酬である予納金を減らそうと『少額管財』という制度を作った。
この少額管財の場合、予納金は法人・代表者合わせて20万円。普通の管財制度の計120万円から、なんと100万円OFFのお買い得。代理人弁護士の費用込みでも100万円程度で破産ができる。実際に破産を経験してみると分かるけれど、このくらいの金額であれば、返済をストップすれば2ヶ月程度で用意できるところは多いと思う。おかげさまで、この制度ができてから、東京地裁に申し立てる中小企業の破産のほとんどは、この少額管財で行うようになったという。すばらしい。
実際、株式会社ポチの破産も少額管財で行った。
ただ、少額管財は申し立てる裁判所によってできるところとできないところがあるので、具体的には代理人弁護士に確認してもらいたい。東京地裁の他は、横浜地裁や大阪地裁には同様の制度があるらしい。
 
会社組織にせず個人事業で商売をやっていた人は、原則的に個人にしか使われない『同時廃止』という手段もある。
もう、財産がないのがわかりきっているので、わざわざ破産管財人を選任するまでもないような場合に行われる方法で、破産申立と同時に破産手続きを終わらせてしまうので『同時廃止』という。この場合、予納金は2万円程度。実際に個人が破産する場合は、ほとんどがこの方法を選ぶらしい。
あくまで財産がない個人限定の方法なので、不動産などの財産を持っていた場合は旧来の方法か少額管財を選ぶことになる。また、免責不許可事由があった場合も、必ず破産管財人が付く形になる。
 
 
さて、こうして破産を申し立て、借金や売掛金を精算してもらう事、それは当たり前だけど良いことばかりではない。
 
まず、何度も書いてはいるけれど、破産すれば会社がなくなる。これに尽きる。
しかし、逆に言えば会社の破産ではこれ以上に悪いことはない。
 
代表者個人も合わせて自己破産した場合は、破産手続き開始決定と同時にいくつかの制約が付く。
まず、破産する会社以外の会社の役員になっていた場合は、一度退任しなければならない。ただ、再任はしてもいいので、形だけ一度やめればOK。旧会社法の時代、破産者は役員になれなかったのでその名残だと思うけれど、ちょっと変な法律ですな。会社の役員以外にも、弁護士・税理士・保険外交員・警備員・古物商など、お金が絡んだり信用が必要だったりする職には就けなくなる。こちらは再任もできない。
破産管財人が付く破産の場合、逃走を防止するため、勝手に引っ越したり旅行に行くことができなくなる。また、郵便物は全て破産管財人に転送されて、隠し財産がないか、なにか隠していることはないかと、中身をチェックされる。
ただし、これらの制約は免責で解除される。財産があまりないケースであれば3〜6ヶ月程度で免責まではたどり着くので、あくまでそのわずかな期間だけの制約であり、一生弁護士になれないわけでも、旅行ができないないわけでもない。郵便物が覗かれるのは気持ち悪いけれど、まあしょうがない。借金をチャラにする対価として考えれば、こんな制約は問題にならないと思う。
 
現実に生活している上で最大の制約は、いわゆるブラックリストに載ることだろう。破産手続き開始決定が出ると、官報に破産者の名前と住所が告知される。信用情報を管理している業者は毎日官報をチェックし、せっせと自分のデータベースを更新している。これがいわゆるブラックリスト。クレジットカードを作る際やお金を借りるとき、業者は必ずこの信用情報をチェックしている。ここに破産したと書いてあるのに、カードを作ったり金を貸してくれる業者はない。
最近では携帯電話の販売でも信用情報をチェックしているらしく、割賦販売を断られるケースもあるらしい。まあ、一括で買えばいいんですけどね。
しかし、クレジットカードがなくても案外生活に困ることはない。いざとなったらデビットカードというクレジットカードもどきもあるし、ETCカードもパーソナルカードというデポジット制の仕組みがある。お金も借りないに越したことはない。
また、ブラックリストの情報は5年〜10年で削除される。その間くらい、クレジットカードをじっと我慢していればいいわけで、これもまた、そんなに大した問題じゃない。
 
一般的には、破産によって社会的なダメージを食らうと思われがちだけど、それはほとんどない。
合コンに行って「破産中です」と自己紹介したらどん引きされたけど*1、実際にはわざわざ宣伝して廻らなければ、誰も破産したことには気付かない。よく、戸籍や住民票に破産者と書かれるという勘違いがあるのだけど、実際にそれはない。極端なことを言えば、破産した事実を隠して結婚してもばれることはないだろう。配偶者に黙ってこっそり破産するというケースもあるらしい。
 
『破産』という言葉には、何とも言えないネガティブなイメージがつきまとう。しかし、実際に個人が負うダメージはそう大きくはない。
もう会社を潰す以外に解決方法がないと考え始めたとき、そのネガティブイメージにとらわれることには全く意味がない。会社を経営している人にとって、『会社を潰す』という事は『敗北』を意味するかもしれない。しかし、それは会社経営者としての敗北であって、一人の人間全てを否定されることではない。経営者として最後の責任を取るためにも、『破産』という一つの対処法を冷静に検討するべきだろう。
 
 
さて、ここまで『倒産』『破産』と長々とつまらない解説を書いてきた。
株式会社ポチは少額管財を利用し、東京地裁に破産を申し立てることにした。
破産を申し立てるにあたり、経営者は『会社を潰す』というもう一つの仕事をしなければならない。
次回その解説をして、「ということ」シリーズは終了の予定。
しかしまあ、こんな長いの読む人いるのかねえ。
 
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*1:そりゃまあ、合コンのネタとしては重すぎだよね。男にだけウケました。意味ね−。