『倒産』ということ

(書いてみたら順序を変えた方がいいので、「『会社を潰す』ということ」を一端削除しました。順序が前後してしまい、申し訳ありません)
 
破産手続廃止と免責決定で『倒産』は無事終了。法人にとっての戸籍にあたる法人登記簿は閉鎖され、株式会社ポチはこの世から消えた。
人間なら「死亡」ということ。享年8歳。短い命でした。さようなら。*1
 
会社が『倒産』したとはよく言うけれど、倒産=会社の消滅ではない。また、倒産=破産でもない。株式会社ポチの場合は倒産=会社の消滅=破産だったけれど、それは倒産の一形態に過ぎない。
大型倒産速報で有名な帝国データバンクでは、倒産を下記のように定義している。

(1)2回目不渡りを出し銀行取引停止処分を受ける
(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)
(3)裁判所に会社更生法の適用を申請する
(4)裁判所に民事再生法の手続き開始を申請する
(5)裁判所に破産を申請する
(6)裁判所に特別清算の開始を申請する
http://www.tdb.co.jp/tosan/teigi.html

この中で確実に会社が消滅するのは、(5)の破産と(6)の特別清算だけ。(1)は後述するのでちょっと置いておくが、(2)〜(4)は会社が存続することを前提としている。会社が残るのに倒産ってどうも釈然としないような気もするけれど、そもそも「倒産」という言葉は法律用語にはないため、法的な定義はない。
 

とう‐さん【倒産】
[名](スル)1 企業が経営資金のやりくりがつかなくなってつぶれること。企業が不渡手形などを出して銀行から取引停止を受け、営業困難に陥ること。「不況で―する」2 赤ん坊が逆子(さかご)で生まれること。 ...
大辞泉

倒産(とうさん)とは、個人や法人などの経済主体が経済的に破綻して弁済期にある債務を一般的に弁済できなくなり、経済活動をそのまま続けることが不可能になること、又はそのような事態を処理するための法的手続をいう。
Wikipedia

このように上に引用した大辞泉の定義と、その下に引用したWikipediaの定義も異なる。一般の人が思う『倒産』は大辞泉のイメージだと思うが、実際の『倒産』はWikipediaの定義であり、「経済活動をそのまま続けることが不可能」なのでなんらかの処理が必要となっている状態になっていることをいう。その処理によって会社が再建する場合・消滅する場合があり、それぞれを、再建型・清算型と呼ぶ。帝国データバンクの定義は、その処理方法を列記したものだ。
  
詳しくは帝国データバンクのページを見ていただいた方がわかりやすいが、それぞれを零細企業の実態に即して簡単にまとめてみよう。
 

(1)2回目不渡りを出し銀行取引停止処分を受ける

実際に良く聞く『倒産』のケースですな。ドラマにおける倒産の典型例と言えましょう。
製造業を中心に企業間の決済でよく使われる「約束手形」というものがあるのだけど、単純に言えば「銀行さん、これを持ってきた人に、今日から(90)日後に(100万)円、当社の口座から引き出して払ってください」という紙切れの事。()の中はそれぞれ。一般的には60日〜120日くらいだけど、業種によっては360日だったりするらしい。怖っ。「小切手」と似ているけれど、すぐにお金が支払われるのではなく、一定の期日が過ぎてからお金が支払われる点が違う。支払う側としてはすぐにお金を用意しなくてもいいので助かるけれど、受け取る側としてはすぐに現金化されないので困る、支払う側有利の仕組みと言える。なぜ製造業を中心に一般的なのかを考えると日本の産業構造が浮かび上がってくるけれど、まあ、それは別の話。
さて、約束手形が現金化される約束の日に、口座にお金がなくて支払うことができない事を「不渡り」という。2回不渡りすると、銀行はその会社との取引を停止する。手形が不渡りになったという情報は手形をやりとりしている全ての金融機関に伝わるので、手形を振り出していた銀行だけではなく、全ての銀行の取引が停止になる。取引が停止すると、返済期日に関係なく、全ての借金の返済を求められる。そもそも銀行が使えないと商売は成り立たないので、その会社の命はもう尽きたということになる。
旧来の産業だと手形はよく使われているので、中小企業でもこの形の倒産は多い。
しかし、Web業界でこの形の倒産をするところはないだろう。そもそも手形を使っているWeb屋は皆無に近い。外注費の支払もほとんどは普通に銀行振込。それがいくら遅れても、銀行が間に入っているわけでもないし、銀行取引停止になったりはしない。株式会社ポチも手形は受け取った経験があるだけだ。
また、実際にこの段階で会社が消滅するわけではない。その後、(2)〜(6)の手順を取る流れとなる。
 

(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)

実際には多いらしいケース。「私的整理」や「任意整理」とも言う。
裁判所を介入させずに、会社と債権者で話し合いをして、債務を整理していく方法。弁護士が会社と債権者の間に入って交渉し、例えば、債務を一律90%カットし、残りの10%を10年間かけて返済していくといた取り決めを結ぶもの。債権者としてはわずかかとはいえ債権が回収できるし、会社としては潰れないで済む。また、法的整理と違って管財人をたてる必要がないので、費用も抑えられる。
いいことばかりに聞こえるけれど、原則的に債権者全員の合意がないとその取り決めは成立しないこともあり、妥結できないままに法的整理に移行するケースも多い。また、公的な監査が入らないため、その取り決めが公平かどうかは疑問が残るケースもある。債務カットすることで新たに借金ができなくなることもあり、資金調達が滞って結局破産に移行というケースも聞く。まあ、いいことばかりではない方法ではあるけれど、会社が消滅しないで存続できるというところは大きい。
私の周りでこの方法を取ったところはないけれど、零細企業でも最近はよく使われる方法らしい。株式会社ポチも、破産の1年くらい前にこの方法を考えていたら、また違った結果を生んだかもしれない。今となっては意味のないことだし、引き際は本当に難しいのだけど。
また、再建を前提としない整理もあるのだけど、それは(7)で。
 

(3)裁判所に会社更生法の適用を申請する

会社と債権者で話し合いをして、債務を整理して再建していく方法としては内整理と同じだけど、こちらは裁判所が間に入り、監督して再建を進めていくのが大きな違い。原則的に経営陣は退陣させられ、新たな経営陣と管財人とで再建を進めていく。
基本的には大企業でしか使われないケースなので、零細企業には縁がない。
 

(4)裁判所に民事再生法の手続き開始を申請する

会社と債権者が裁判所の監督の下で話し合いをして債務を整理して再建していく方法としては会社更生法と同じなのだけど、こちらは経営陣の退陣が必要なく、そのまま経営を続けることができる。中小企業に使いやすいようにと2000年に誕生したが、最近では大企業にもよく使われる方法。管財人ではなく監督委員が裁判所から送られてきて、再建を監督する。会社と債権者の話し合いで債権をカットするのは内整理と一緒だけど、債権者の過半数がその計画に賛成すれば成立するのが大きな違い。監督委員が入るので公平さも担保される。
良いことずくめのような気がするけれど、多額の費用がかかるのが欠点。裁判所に民事再生を申し立てるときの予納金は、最低でも200万円。弁護士費用も破産よりかかり、最低でも100万円。300万の現金があったら潰さないよと思っちゃう辺りは私が駄目経営者である所以なんだけど、実際のところはなかなか難しいところだと思う。
そんなわけで、零細企業とはいえない規模の中小企業では使われるけれど、零細ではあまりない方法かな。取引先で民事再生を始めたところがあったけど、結局最後は破産に至っていた。その予納金で少しでも払ってよ、というのが正直なところだった。
 

(5)裁判所に破産を申請する

さて、ようやく倒産の王道、破産がでて参りました。株式会社ポチもこの方法を取っております。ビバ破産。
バンザイ突撃かって話はさておき、破産はこれまでの倒産とは内容が大きく異なる。
内整理や民事再生などを再建型の倒産と言ったりするのだけど、こちらは会社を再建することが前提。しかし清算型の倒産と言われる破産は、会社が消滅することを前提としている。再建型では事業を継続していくために最低限の資産は残すけれど、清算型は文字通り全てを清算する。人間関係の清算はその後で復活することがあるかもしれないけど、会社の清算はもう復活しません。さようなら。
というわけで、破産=会社の消滅。全ての資産を管財人が確認し、処分・換金して債権者に分配する。そして、全ての処理が終わったところで裁判所に報告し、報告を受け取った裁判所は法務局に連絡して、法人の戸籍にあたる法人登記簿を閉鎖する。この段階で会社は消滅する。
会社の消滅を前提としているため、倒産における究極の方法と言える。当然のことながら、少しでも再建の可能性があるならば破産という方法は取らない方がいい。しかし、そのまま存続させることで、借金が増え、買掛金が増え、未払賃金が増え、未納の税金が増えと、どんどん人に迷惑を掛けていく事が確定的ならば、破産という方法を取らざるを得ないと思う。
そう思って株式会社ポチは破産を決断した。その決断に悔いはないと、思いたい。
零細企業の倒産というと、ほとんどが破産。破産については別途「『破産』ということ」というエントリーを上げるつもりなので、そちらをご覧ください。
 

(6)裁判所に特別清算の開始を申請する

これは実際に使われているケースを全く知らないのだけど、債務超過の株式会社に限定して使われる方法だそうな。
実際には親会社が債務超過の子会社を清算時に使うケースがほとんどのようなので、零細企業には関係ないですな。

 

(7)放置する

これまでは帝国データバンクの倒産基準に則って説明してきたけれど、それとは別に零細企業でよく使われる方法として「放置」というのがある。帝国データバンクの基準に無理矢理合わせるのなら、「(2)内整理する(代表が倒産を認めた時)」になると思う。
単純に言えば夜逃げ。借金も売掛金も従業員も事務所もそのまま放置して、金目のものだけ持って逃げる。会社の登記だけは存続することになるけれど、実際には何年か決算しないで放置すると閉鎖されるらしい。事務所を放置された大家は、保証金を崩して中身を撤去してまた貸し出せばいいし、従業員は社長が逃げたところで倒産認定されるので、すぐに失業保険がもらえ、未払賃金立替制度も使えるそうだ。借金のほとんどは経営者が連帯保証人になっているので、時効になるまで5〜10年くらい経営者は逃げ続けないといけない。まあ、そのくらいなら逃げ切れないこともないいような気もするし、そう考えるとなんとかなっちゃうのかもしれない。というわけで、それなりに数は多いらしい。
実際に破産してみると、気持ちは分からないでもない。破産直前の借金取りに追われている状況だと、もう全てを放り出して逃げたくなっちゃうものなんですよ。海外逃亡とか夢見てみたり。まあ、逃げちゃ駄目なんだけど、全てが面倒になってしまうあの感じは体感的に理解できる。
しかし、実際に破産してしまえば逃げる必要もなく、すぐに生活を再建することができるし、債権者も損失をすぐに処理することができる。正直、気持ちの上でもかなりすっきりする。費用も今となってはそんなにかからないし、放置するよりは破産をおすすめしたい。
 
というわけで、ずらずらと書いてきたけれど、倒産=会社の消滅でも、倒産=破産でもないのは理解してもらえたと思う。
破産の段で書いたように、株式会社ポチは破産を選択した。
次回は『破産』について書いてみよう。

*1:とはいえ、一説では会社の90%は創業から10年持たないそうなので、そんなに短くはないかもしれない